『風の古道』単行本収録にあたって

※この文章は、『風の古道』単行本収録にあたって、単行本内にページを設けて掲載する予定だった作者コメントです。実際にはページ数の関係で掲載できませんでしたが、漫画『風の古道』を理解するのに助けになるかと思いましたので、ここに掲載しておきます。


『まつろはぬもの』第5巻に収録されている漫画『風の古道』は、2006年秋に週刊ヤングサンデーにて短期集中連載した作品です。同名の原作小説<風の古道>(恒川光太郎著・角川書店刊)のコミカライズ作品になります。
たった5週間の連載でしたが、小説の漫画化、本格的な和風ファンタジー、短期とは言え週刊での連載、等々、全てが初めての挑戦で、楽しくも緊張する作業でした。

原作小説<風の古道>の舞台である「古道」には、人間の弱さ、醜さ、寂しさを優しく包み込む心地良さがあります。これが不思議な浮遊感、透明感となって、読者を世界に惹き込む大きな魅力となっています。
漫画『風の古道』を製作するに当たって、原作の持つ雰囲気を損なわないように留意し、出来る限り原作小説に沿うように努めました。漫画的演出の都合上変更した箇所も幾つかありますが、原作者・恒川さんの「改変OK!トコトン好きにやっていいよ!」という寛容なお言葉に甘えつつ、基本的には、一読者としてのスタンスで小説<風の古道>の世界を漫画で再現することに腐心しています。
拙い部分も多々ありますし、残虐描写について編集者から注意を受けてしまった箇所もあるのですが、それら全てが作品を構成する上で不可欠な要素ですので、出来る限り当時のままの状態で収録してもらいました。

『まつろはぬもの』は、漫画版『風の古道』の半年後に、この作品を下敷きにして始まった連載となっています。
もちろん原作は変わらず小説<風の古道>です。しかし、中篇である原作小説<風の古道>におけるほぼ全てのファクターを漫画版『風の古道』で語り尽くしてしまったため、1年以上続く本格的な連載を立ち上げるに際しては、新たな要素を導入することがどうしても必要でした。
そこで、『まつろは〜』では、「古道」という世界を背景に登場するキャラクターたちが自由に動けるように、新たな設定を幾つか投入することにしました。ここでも恒川さんの「自由にやっちゃってください」という寛大なお言葉に勇気を得て、抜本的に設定を立て直しています。
まずは霊喰み、妖怪、人間という分断された3種の存在を確立し、どれにも属さない存在としてレンを設定し直しました。「古道から出られない」という初期設定は小説のままに、レンの在り様をがらりと変えてしまったわけです。
当然「古道」の在り様も、小説とは変質してきます。生・食・性など動物の根源的欲求に忠実な霊喰みや妖怪たちを人間の敵に据え、多くのドラマを作りやすい設定を原作から追加しました。
「霊喰み」は私の創作に成る化け物で、『まつろは〜』世界においては「肉体を持った幽霊」とでも言った存在になっています。生前の記憶そのままに生き続けようとする死者の妄執を、害意としてわかりやすい形でビジュアライズしました。
小説<風の古道>では、「古道」は入り込んだ者に寛容で、行き場をもたぬ人間にも優しい場所だったのですが、『まつろは〜』では古道を、人間を脅かす凶暴な存在が跋扈する場所として描き、人間を厳しく排除する場所としました。常にレンの傍にいて女の子に悪さをしかける蘇芳は妖怪の代表で(笑)、彼の存在もまた全くの私の創作です。
こうして出来上がった世界やキャラクターは、一見して恒川さんのワールドからは遠く隔たったように見えます。しかし、行き場のない人間が許容される場所を求めて流離うというテーマ、レンやゲストキャラだけでなく霊喰みにまで転用される「孤独」「寂しさ」「情愛への飢え」という主題は間違いなく、原作小説から隠然と続くものです。漫画版『風の古道』を小説<風の古道>と『まつろはぬもの』の間に挟んで読んでいただくことで、そうした部分はいっそう拾っていただき易くなるのに、とずっと考えていたのですが、今回機会を得て、5巻の末尾(といっても漫画版『風の古道』は110Pもあるのですが)に『風の古道』を挿入してもらうことができました。『まつろは〜』とはまた違った「古道」を楽しんでいただければ幸いです。

そして、原作小説を未読の方がいらしたらぜひ、恒川光太郎さんの<風の古道>も併せて読んでみてください。小説<風の古道>、漫画『風の古道』、そして『まつろはぬもの』と3者3様の違いや共通事項などを探して楽しんでいただくのも、また面白いと思います。

2008年10月30日
木根ヲサム